神経機能の向上作用が期待される化合物の探索

我が国では、高齢化が急速に進んでいることなどから、アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患の患者数が増加している。これらの疾患による認知機能低下は、患者自身のQOL(生活の質)を著しく低下させるだけではなく、家族をはじめとする周囲の人々への負担を増加することになり、社会問題にもなっている。従って、現在、脳神経細胞の機能低下を抑え、また、回復させる作用薬の開発が強く求められている。  当研究室では、神経機能向上作用があると言われている、ある天然物エキスの成分を神経細胞に添加すると、その神経細胞が神経毒による変性を起こさないことを見出した。そこでその作用メカニズムの解明や、活性化合物の治療薬への応用の可能性について探っている。

神経細胞(緑色の部分)
神経毒(Glu)の作用で一部死んでしまった細胞
   

当研究室で見出した化合物は神経毒(Glu)による細胞死を防いだ。

この研究で必要となる実験技術
1.天然物からの活性成分の分離構造決定と誘導体合成(クロマトグラフィー、NMR、MSなどの機器分析、有機合成化学)
2.神経細胞の分離・培養技術(動物細胞の分離・培養、蛍光顕微鏡による観察、フローサイトメトリー)
3.生体分子の定性・定量(ゲル電気泳動、抗体免疫法、MALDI-TOF-MS)

安全で効率的な、がん遺伝子治療法の開発

遺伝子治療は1990年代にアメリカで始めての臨床例が報告された当初、既存の薬物療法とは根本的に異なる、夢の治療法として注目された。しかしながら、その後、副作用の発現や、治療遺伝子の患部への送達の難しさなどが原因で、その開発は滞っていた。最近になり、これらの問題点が徐々に解決されてきて、その有効性が再認識されるようになり、より安全で効率的な方法論の開発が期待されている。 当研究室では、分子標的抗がん剤の一種であるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤と、リポフェクション法による遺伝子治療との相乗効果を、安全性の高い効率的な治療法の開発に繋げようと取り組んでいる。我々は、この研究により、がん遺伝子治療とHDAC阻害剤を組み合わせると、その効果が相乗的に上がることを見出した。また、この効果が、HDAC阻害剤、がん細胞、遺伝子の種類に依存しており、最適な組み合わせがあることなどを明らかにしてきた。また、この併用効果が、HDAC阻害剤による、遺伝子の核内輸送系促進作用や、がん細胞での遺伝子発現系の特異的上昇作用に起因することが示された。 さらに、我々は、このHDAC阻害剤とがん遺伝子治療との併用を単一製剤で可能にしようと考え、それを実現するナノ粒子製剤の開発を進めている。

安全で効率的な、がん遺伝子治療法の開発 HDAC阻害剤のみを乳がん細胞に投与した場合(灰色のカラム)、投与量が1μM~4μMの濃度の範囲では、乳がん細胞の増殖をほとんど抑えなかった。それに対して、一定量のがん抑制遺伝子を同時に投阻害剤の与すると、HDAC阻害剤の濃度に依存して、がん細胞の増殖が抑えられた。

この研究で必要となる実験技術
1.治療用遺伝子の設計とクローニング(遺伝子組み換え、遺伝子のクローニング)
2.がん細胞の培養・薬理活性試験(動物細胞およびマウスを用いた薬理試験)
3.生体分子の定性・定量(ゲル電気泳動、抗体免疫法、MALDI-TOF-MS)
4.ナノ製剤の設計と合成(有機合成化学、ペプチド合成、ナノミセル形成)

メラニン産生制御物質の探索

メラニンは、生体を紫外線の照射から守るために重要な働きを持つ生体内色素である。しかしながら、メラニンが過剰に産生したり、色素量に偏りが生じたりすると、シミやソバカスとなり、美容の観点からそれらの産生を抑制するか、除くことが望まれる。逆に加齢による白髪は、毛髪のメラニン量の減少によるものであり、毛根細胞でのメラニン産生促進が求められる。 我々は、医薬基盤研究所の竹森洋博士との共同研究で、メラニン産生細胞のメラニン産生機構の研究を行ってきた。この過程でメラニン産生を制御する物質を見出し、それらの作用機構や、活性化合物の構造と活性との相関を明らかにしてきた。今後これらの化合物が化粧品や医薬部外品へ応用されることが期待される。

化合物1と化合物2を用いたメラニン産生抑制試験

この研究で必要となる実験技術
1.メラニン産生細胞の培養
2.メラニン量の定量
3.生体分子の定性・定量(ゲル電気泳動、抗体免疫法)
4.天然物からの活性成分の分離構造決定と誘導体合成(クロマトグラフィー、NMR、MSなどの機器分析、有機合成化学)

毛髪の生理の解明

毛髪は、人間の生死に直接関わることが無く、医学的な研究対象としてはあまり重要で無いように思われる。しかしながら、世界的に高齢者の割合が増える中、いつまでも、健やかな髪の毛でいたいと思う人が多くなり、毛髪関連化粧品の需要は伸びており、多くの商品が開発されている。このような状況においては、他の商品との差別化が必要になるが、そのためには、知られていない毛髪の生理現象やそれに影響を及ぼす外的要因について詳細に調べる必要がある。当研究室では、毛髪化粧品メーカーとの協力のもと、毛髪の生理の解明を進めると共に、その研究成果に基づく毛髪関連化粧品の成分開発を進めている。

この研究で必要となる実験技術
1.生体分子の分析(LC-MS、GC-MSなど)
2.染毛剤の調整
3.生体分子の定性・定量(ゲル電気泳動、抗体免疫法)
4.天然物からの活性成分の分離構造決定と誘導体合成(クロマトグラフィー、NMR、MSなどの機器分析、有機合成化学)

新規オキシインドール環構築反応の開発研究

オキシインドールは多くの医薬品や生理活性化合物に含まれる構造である。多様な置換基を導入可能なオキシインドール誘導体合成法の開発は、創薬研究の進歩に貢献できる技術である。そこで、我々はする際に、化合物1のニトロ基をパラジウム触媒でアミノ基に還元すると速やかに閉環し、3位に四級不斉炭素を有するオキシインドール2を与えることを見出した(図1)。さらなる検討の結果、金属触媒をロジウムに変更し、酸をトシル酸に変更すると、N-ヒドロキシオキシインドール3が定量的に得られた(図1)。現在、本反応を不斉反応へと展開し、天然物の全合成へと応用している。最終的には多様なオキシインドール化合物をライブラリー化し、生理活性を評価することを目指す。

新規オキシインドール環構築反応の開発研究

得られるスキル
有機合成、各種アッセイ、構造解析

構造活性相関研究

化合物の置換基を種々変換し、生理活性との相関を解明する構造活性相関研究はメディシナルケミストリーの中核である。我々は、創薬研究の主要な標的である、G蛋白結合型受容体、エピジェネティクス、タンパク―タンパク相互作用に関与する低分子化合物の構造活性相関研究を行い、医薬品候補化合物を探索する。研究テーマは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤(理化学研究所との共同研究)、p53-Mdmx阻害剤(京都大学および国立がんセンターとの共同研究)、ムスカリン受容体作動薬がある。

得られるスキル
化合物設計、有機合成、各種アッセイ、構造解析

次世代創薬に貢献する化合物ライブラリ一の構築

従来の医薬品化合物の多くは、標的タンパクの低分子リガンド結合ポケットにsp2炭素が多く含まれる、平面的な化合物であった。これらの化合物を新しい評価系でスクリーニングしてもヒット化合物が得られにくいことから、より複雑なScaffoldを持ち、かつ多様な置換基を有する化合物群のライブラリー化が望まれている。特に、大環状化合物およびスピロ化合物に着目し、合成を行っている。

得られるスキル
有機合成、単離精製、構造解析

エピジェネティクス調節剤添加培地を用いた新規二次代謝産物の取得

菌が生産する二次代謝産物からは、ペニシリン、エイスロマイシン、タクロリムスなどの活性化合物が発見され、医薬品として上市されている。近年、放線菌を中心に二次代謝産物の探索 が精力的に行われた結果、有用天然物はほぼ取り尽されたと考えられてきたが、ゲノム解析技術を用いて菌のゲノムを解読したところ、未知の二次代謝産物の生合成をコードする遺伝子が多数見つかり、多くの二次代謝産物が「眠っている」ことが明らかとなった。これらの「眠っている」菌のゲノムを起こすことができれば、医薬品になりうる新規二次代謝産物の取得が可能となる。そこで、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC) 阻害剤などのエピジェネティクス調節剤を培地に添加することで、通常の培地では「眠っている」遺伝子の転写を活性化し、新らたな二次代謝産物を取得し、医薬品化を目指す。

得られるスキル
菌の培養技術、単離精製、構造解析


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